原題:Birds of Prey: And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn
上映時間:109分
監督:キャシー・ヤン
キャスト:マーゴット・ロビー メアリー・エリべザベス・ウィンステッド シャーニー・スモレット=ベル ロージー・ペレス ユアン・マクレガー
あらすじ
「スーサイド・スクワッド」に登場して世界的に人気を集めたマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインが主役のアクション。
悪のカリスマ=ジョーカーと別れ、すべての束縛から解放されて覚醒したハーレイ・クイン。モラルのない天真爛漫な暴れっぷりで街中の悪党たちの恨みを買う彼女は、謎のダイヤを盗んだ少女カサンドラをめぐって、残忍でサイコな敵ブラックマスクと対立。
その容赦のない戦いに向け、ハーレイはクセ者だらけの新たな最凶チームを結成する。マーゴット・ロビーが自身の当たり役となったハーレイ・クインに再び扮し、敵役となるブラックマスクをユアン・マクレガーが演じた。
監督は、初長編作「Dead Pigs」がサンダンス映画祭で注目された新鋭女性監督キャシー・ヤン。
引用元:https://eiga.com/movie/90686/
3月20日 TOHOシネマズなんば にてIMAX字幕版を鑑賞 [ 80/100点 ]
本記事はネタバレが含まれます。ご注意ください。
OPから「今までのDCとは違う」が満載だった
本作「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒(以下、ハーレイ・クイン)」の最大の魅力はなんと言ってもアクションシーンが留まることなく続くこと、これに尽きます。
スーパーマンの単独映画「マン・オブ・スティール(監督:ザック・スナイダー)」から始まった一連のDCユニバース映画の中でも、最も映画の始まりを小気味よく伝えていたように思います。
これまでのシリーズ作品は往々にして「物語のはじまり」までの説明が良くいえば重厚、悪く言うとやや鈍重感もありました。
去年の「アクアマン」、あるいは「シャザム!」も主人公がはっきりと登場してからのスピード感は小気味よかったのですが、OPはいずれも「過去の回想」などを交えてじっくりと準備を据えていくスタイル。
今回の「ハーレイ・クイン」は早々に主人公登場してからは、期待通りの天真爛漫、かわいいサイコパスぶりを見せつける両足折りジャンプ、ラスボスのブラックマスク周りの説明を処理。
トレーラーを因縁の薬品会社にぶつけて華々しくタイトル宣言までの流れが見事だと私は感じました。
個人的にやはり前述の「マン・オブ・スティール」、「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」などシリーズの祖となってしまったザック・スナイダー流の演出や作風にDC作品が囚われてしまっていたように思うのです。
つまるところDC作品は「神話的」「ダーク」「重厚なドラマ」であるべき、という何となく存在する潮流です。
その意味でも今作のメインテーマ「ハーレイの覚醒と自己確立」を「DC作品の潮流からの解放、独立」になぞらえて、振り切った娯楽作品へ舵を切ったことがOPの時点でわかります。
「デッドプール」&「ジョン・ウィック」の影響
今作が従来までの「ダーク」路線などから逸脱するとして、寄る辺にした作風でいうとやはり「デッドプール」の影響が計り知れないなというのは所感として持つところです。
特にハーレイ自身が語り部として話が進む、時系列がやや曖昧に前後してスタート、不謹慎なギャグシーンなどは「デッドプール」の興行的な成功がなければここまでやれなかっただろうなと。
現にハーレイのデビュー作だった「スーサイド・スクワッド」は監督と製作が作品の方針を巡って対立し、カットが続出で話がぐちゃぐちゃ、レーティングの年齢層を広げるために表現方法が限定されるなど問題が表出化していました。
今作はそのあたりが明確にクリアされていて、脚をイタイタしく折るコミカルにグロい描写とか、恨まれても全く文句が言えないような「イタズラ三昧」などハーレイにやってほしいアクションが満載でした。
またその痛々しいアクションに現実感を加えていたのが「ジョン・ウィック」ばりのスタントです。多数の暗殺者から狙われる、大切な「サンドウイッチを殺され」てからマジ切れスイッチが入るあの感じ、その後改めてわざわざ「ペットが殺されるくだり」を入れるオマージュなども指摘したいところですが、ここでは格闘アクションの完成度の高さを褒め称えたいです。
DCユニバースの殆どがCG表現を絶対的に必要とする「スーパーパワー」を持つヒーローが多数。あるいはそうでなくとも、やはりザック・スナイダー的なスローと止めを駆使したグラフィック・ノベルの再現へのこだわりが強かった。
現実感を逸脱した表現を多用することにより「神話的」な世界を構築してきた今までから、より「肉体的で現実感のある」スタントを全面に出してきたのは明確なこだわりだったように思います。
ハンマーとローラースケートで戦うなどのおふざけを入れつつも、その足さばきや体術の型、あるいは攻撃においては前述の脚折り、膝砕き、急所への精密な攻撃など「痛々しい」を強調!
ハーレイ・クインがコミックのキャラである前提は崩さない範囲で、人間的な身体性を帯びてスクリーンに再デビューしてみせるという、実はDCユニバースの中でもかなり画期的なことをやってのけているという点に注目です。
説得力を増したアクションと動機が
「ガールズエンパワーメント」を身近にする
個人的にこの「見ていて痛いと思えるアクション」というのが単にスタントだけでなく、掲げているテーマをより身近に感じさせる効果もある気がします。
男社会に抑圧されていた女性たちの覚醒というのが今作のテーマなのは言うまでもないことですが、例えば「ワンダーウーマン」よりも今作のほうがよりテーマが明確に伝わるのは間違いないです。神話的なるものからより現実感あるものへ落とし込まれています。
DC作品ではないですが「キャプテン・マーベル」なども「超常的な力を持てるもの故にできる」というエクスキューズがついて回ってしまうため、強い女性ヒーローは逆説的に「ガールズエンパワーメント」を表現することが難しいのではと感じています。
ハーレイ・クイン&後のバーズ・オブ・プレイの3人&少女カサンドラはいずれも冷静に見ると「すっげーー強い誇張されたキャラクター」ではあります。
しかし一方で、敵に打ち勝つ度に大なり小なりロジックが示されていて、そのロジックがなければ絶対に勝てないことが素晴らしい。
前述した力強いスタントはもちろんですが、物語上の小さな伏線や小道具の回収も丁寧です。
例えばローラースケートは序盤で(卑怯な手を使いながらも)レースに勝てるほどの腕前だとか、ここで披露されている「ぶん投げて!」のくだりの回収。
カサンドラが車で連れ去られてあとの、それぞれが得意とするアクションが繋がったから勝てたというロジック「キラーボイス→バイク→ローラースケート→残り1発の拳銃→ピックポケットと手榴弾」。
「ハーレイ・クイン」は絶対的な力一つでなんとかなるという展開がなくて、むしろ「ジョーカーの庇護」という超常パワーが失われた状態からスタート。だからこそ映画の構成全体が細かいロジックの繋がり、キャラの関係性の繋がりを丁寧に描くことで展開していくことに成功しています。
ついでにいうとそれぞれのキャラが集う動機も全員が「個人的な利害の一致」という部分が強調されていて、大義名分のために仰々しく戦うということがない。ここも良かったです。テーマの押し付けがましさも少なかったかなと思います。
ハーレイやバーズ・オブ・プレイの3人が最初から最後まで犯罪行為や暴力暗殺上等でやりたい放題or信念に基づくそれぞれの生き方で貫くから最高です。
スーサイド・スクワッド的な偽善感はヴィランが主役の話だと鼻白んでしまうし、むしろ今回のような小悪党が巨悪をくじくピカレスク・ロマンであることが「ガールズエンパワーメント」の社会風刺を力強く支えていました。
間違ったことを正す、己を貫くということが持たざるものでも出来るのだという後押しになるのではないでしょうか。
まとめ
最後に一つ注文をつけると、悪役の魅力についてはユアン・マクレガー演じるブラックマスクはいまいちだったかなと。あまりに薄っぺらいチンピラの親分以上でも以下でもなく、俳優の魅力を引き出しきれてない感は正直ありました。
今作においては他の部分が良いのでさほど気にならない薄味の悪役ではありましたが、次回作ではこの「魅力的な悪役」で勝負してほしいところ。「ハーレイ・クイン」シリーズの決定的な伸びしろになり得るのではないかと思います。
新型コロナウイルス騒動で映画館に足を伸ばしづらいご時世ですが、カラッと楽しい映画を求める人には絶対におすすめしたい作品でした。
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