原題:Iron Sky
上映時間:通常版94分 DC版110分
監督:ティモ・ヴオレンソラ
出演:ユリア・ディーツェ、ゲッツ・オットー、クリストファー・カービイ、ウド・キアなど
あらすじ:2018年アメリカ大統領選挙のキャンペーンの一環として黒人のモデル ジェームズ・ワシントンが46年ぶりに月面に着陸する。しかし降り立った月の裏側では地球から脱出したナチスたちが帝国を築き、虎視眈々と地球侵略を企んでいたのであった!
11月18日 Amazonプライムビデオにて鑑賞 [ 60/100点 ]
本作とは全く違う作品をリサーチしていたところ、Amazonプライムビデオの「あなたにおすすめ」に妙な作品が出てきた(どうやら以前の記事で「ハードコア」を見返したせいらしい)。それがこの「アイアン・スカイ」という映画。
ポスター絵とあらすじをひと目見て、何かがティンときまして即マイリスト。もう2018年も終わりですが、知るかぎり月からナチス軍の侵略を受けた覚えはなかったので、日曜夜の酔っ払った頭で一回目の視聴。「うん、なかなかやるやん」という印象。
視聴後に改めて「アイアン・スカイ」を詳しく調べてみると、なんとディレクターズ・カット版(以下DC版)があるじゃない!しかも同じくAmazonに・・・。
くっそ~と謎の悔しさから、DC版も続けて最初から鑑賞。結局2回みてしまった映画「アイアン・スカイ」の感想を。
目次
さくっと感想を述べると
ザ・B級SF作品
率直に言ってノレないコメディシーンは多かったし、人種ネタは見てるこっちがヒヤヒヤするなど、粗雑な印象が拭えなかったです。
ただSFとしての設定は妙に納得させられてしまう。トンチキなアイデアで大見得を切りつつも「こういう世界はあり得るかも」という説得力がそれなりにある。
結果、SF映画作品としてまあまあ満足でした。時にはこれぐらいの映画が欲しいときもありますし、ちょうどいいタイミングで見れましたよ。
順を追って説明していきます。
設定(アイデア)が素晴らしい
冒頭から嫌いになれない
前述したようにまず、なんと言っても設定が(個人的に)かなり良い。
「1945年の第二次世界大戦後にナチスの残党たちが、地球を脱して帝国を築いていた」
このトンデモ設定を、意外と真面目にスタートさせているところが面白い。地球からやってきた黒人モデルのジェームズ・ワシントンが捕まる一連のシーン。月面の巨大な採掘場が映し出され、ナチスの兵士が宇宙服で初登場する大事なつかみだ。この辺をちゃんと見せてくれてるのが嬉しい。
服装などの文化が大戦当時で止まったレトロ感と、それに準じた宇宙服や制服は格好いいし、月の都市内部の「鉄と石」に囲まれた冷たい空気感とかもなかなか。ゲームで言うと「バイオ・ショック
「文化がある時点で停滞しつつも、超技術で大発展を遂げた架空都市」
最高じゃないですか!
超技術を持ってるのに「遅れている」という可愛さ
面白いのはナチスの超技術で月に帝国を作ったのに、時を経て現代になった今では地球から遅れてしまっているという点。
工業力だけで最終超巨大兵器「神々の黄昏」号の本体は作ったものの、ろくなコンピュータがないために制御できないありさま。スマホ1台あれば十分だと判明してしまうくだりは、なんとも可愛い。
すっかり平和ボケしてて可愛い
ヒロインのレナーテ・リヒターが子供達に英語を教えているシーン。ここのすっごい説明的なやりとりとか堪らないものがあるけど、それは置いといて・・・。
レナーテの話す内容的には確かにナチス思想なんだけど、すっかり博愛主義的に解釈されてしまっているのが可愛い。「劣等種族を”救済”せねば」とこのあと何度も話すレナーテだが、他意はなく普通に”救済”しようとしているという平和ボケ感。
「でも他の文明と全く交流もなく、ひと世代、ふた世代と進めばこうなるよねー」と個人的にはなんか納得してしまった。
こうしてトンチキが一周回ってトンチンカンになった月のナチスたちが、遂に地球へやってくるという中盤へ突入する。ここからはちょっとしんどい。
コメディシーンが物語を牽引!・・・しない。
中盤は正直きつい
序盤からすでに「コメディは微妙だなあ」と思ってはいたんですけどね。中盤にさしかかると、けっこうキツかった。
「最終兵器を動かすためにスマホが必要 ⇒ 精鋭が地球へ」
地球に次期総統のアドラー(ラスボス)とヒロインのレナーテ、地球の案内人として上述のワシントンがやってくるが、ここから延々と地球での「面白くないカルチャーギャップコメディ」が続くのでキツイ。
「時代錯誤のナチスが現代の地球にやってくる」というだけで面白くなりそうなんだけどあまりそれを活かせていないのが残念。
DC版でニューヨーク郊外の高速道路にやってきたシーンは割と良かったかも。移動手段を確保したいアドラーが「車を止めろ」と言うので、おもむろにモブの部下兵士が道路に飛び出して悲惨なことになるくだり。あまりに不意をつかれたのでつい笑ってしまった。
(でもよくよく考えると月にも車はあったし、なんで車が高速で行き交うところへモブ兵士が飛び出したのかは不明だ!)
最高につまらないところでいうと、「ヒトラー ~最期の12日間~
一発ギャグ連打・・・
とにかくどのギャグシーンも後で何も機能しない寄り道なうえに、一発ギャグとしてすべってる。
B級だから、と優しい目で見たらいいのはわかってるんだけども。ごめんなさい、私はこの地球の珍道中、どうしても別作品と比べてしまいました。
「アイアン・スカイ」公開当時の2012年と違って、現実に2018年になった今は「帰ってきたヒトラー
こっちは時代錯誤のナチス(しかも総統)が現代へ、というコメディーをちゃんとやれてる。「ヒトラー ~最後の12日間~」のパロディーもこっちが遥かに上の出来。
(あくまで個人史として)2018年に自分の元へやってきた「アイアン・スカイ」ちゃんに、「帰ってきたヒトラーを知らないの~?ぷーくすくす」というのは忍びないんだけど、感情として否定しようがないんです。ごめんね「アイアン・スカイ」ちゃん・・・。
終盤にたどり着いたらゴールは近い!
やったぜ宇宙戦だ!
地球でのくだりは退屈でしたけど、まあ2回見れるくらいにはギリ乗り越えられました。そしてなんやかんやあって舞台は宇宙へ。
「地球に侵攻するアドラー率いるナチス軍 vs 国連軍withワシントンとレナーテ」
やーーーっと待ちに待ったナチスの侵略が開始。ここからは娯楽映画として安心してみてられる。街を容赦なく攻撃する割り切りもいいし、CGも結構頑張ってる。DC版はこのあたりも映像追加されてるのが嬉しい。
ナチス軍が巨大な月の岩石を牽引してきて、地球に落とすだけというシンプルな隕石攻撃。こことかSFなのに原始的で、現実にできてしまいそうな気がしてしまう戦法として、怖いなと説得力がある。しかも都市壊滅は免れない破壊力!
両軍双方の宇宙船デザインも硬派で好きだし、このあたりの地の足の付き方だけ妙に大人びている「アイアン・スカイ」ちゃん。
一方でラスボスのアドラーとレナーテのバトルシーンは、あまりにも間抜けだったりするので油断できない。アドラーが煙幕を張って、レナーテの背後に回ろうとノロノロ歩くさまを引きのショットでわざわざ間の抜けた感じで映すとか、最高にダサい。
この二人のバトルはなんともおかしな空気だったけど、ケレン味たっぷりのアドラーのやられ具合で許せた気もする。つくづく人間が映ると緩くなる「アイアン・スカイ」ちゃん、これも味なのだろうか。
エンドロールが引き締めてくれる
なんやかんや最終兵器「神々の黄昏」号も沈み、ナチス軍は敗退。ここで月にやってきた国連軍が月の重大資源である「ヘリウム3」を見つける。そして地球陣営同士の資源争いへと発展していくのだが・・・。
ここからエンドロールへの短いシークエンスが、個人的にかなりお気に入り!(ただし国連の会議室でおっさん達殴り合うシーン、てめえはダメだ)
資源争いうんうんもベッタベタなSFといった感じで好きだし、何より最終的に生き残った月の住人たちの純朴なところがとってもいい。
エンドロールに入ったところで「そこそこ衝撃的な地球の描写」が出た瞬間、頭によぎってしまうのは「生き残った月の住人たち」。まだナチス思想に染まっている住人と、かれらを率いることになるであろうワシントンとレナーテの前途やいかに。
ナチスが地球に攻めてくる、という始まりから思いもよらない場所まで連れて行ってくれた。トンチキでも、トンチンカンでもない。素晴らしい着地を見せてくれるSF映画だ。
「そこそこ衝撃的な地球の描写」が何かは是非ネタバレ無しで映画としてみてほしいし、どこかで調べてしまうと台無しです。(なんなら詰まらない中盤は飛ばしてもいい)
まとめ
2018年というキーワードで今年中に見ると話のネタになる作品。
傑作とは口が裂けても言えないけど、設定やOPで、そしてEDでキラリと煌めきを見せる王道B級にふさわしい作品。ぜひネタバレ無しで、気になった人はこのSF映画「アイアン・スカイ」に出会ってほしいと願うばかりです。
現在「アイアン・スカイ」は通常版
・・・ちなみに2019年に続編が公開されるようで。
僕の余韻を返して。
<2019.5.23>追記
日本での公開アナウンスも来ました!見に行くぞ!
その名も・・・
「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」!!
公式より「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」予告編だぜヒャッハーーー!!
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