洋画

【70点】インドの小さな部屋から世界に夢を持つ「クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅」

クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅

原題:The Extraordinary Journey of the Fakir
上映時間:96分
監督:ケン・スコット
キャスト:ダヌーシュ、ベレニス・ベジョ、エリン・モリアーティ、バーカッド・アブディ、ジェラール・ジュニョなど

あらすじ

世界30カ国で販売された人気小説「IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅」を映画化し、クローゼットに閉じ込められたことから世界を巡るはめになったインド人青年の顛末を、「人生、ブラボー!」のケン・スコット監督が描いた。

インドの貧困地域で育った青年アジャは、母の死をきっかけに1枚の偽札を持って憧れのインテリアショップのあるパリへやってくる。

ひょんなことから閉店後の店内で一夜を明かすことになったアジャだったが、入り込んだクローゼットがそのままトラックで搬出されてしまう。そこからアジャは、世界を巡る奇想天外な旅に巻き込まていく。

主人公アジャ役は、インドのスーパースター、ラジニカーントの娘婿にあたるダヌーシュ。アジャが各国をめぐる旅の中で出会う人物たちを、エリン・モリアーティ、ベレニス・ベジョ、バーカッド・アブディ、ジェラール・ジニョと国際色豊かなキャストが演じている。

引用元:https://eiga.com/movie/90282/

6月23日 なんばパークスシネマ にて字幕版を鑑賞 70/100点 ]

なんばパークスシネマにて撮影 公式ポスター

インドの実力派俳優ダヌーシュ主演「クローゼットに閉じ込められた僕の奇想天外な旅」。

正直に申すとこのなっっっっがい邦訳タイトルに圧倒されてしまったわけですが、実は原作小説の日本タイトルに忠実らしいですね。「奇想天外なタイトルにしたかった」訳ではなく、あくまで原作に敬意を払ったということらしい。

映画を見た後に原作小説の存在を知ったので、「なるほど。だからこんなにも珍妙で、こじんまりとしたお話なのね(遠い目)」と納得しました。

大作の観賞続きだった私には箸休めになって癒やされる内容でした。そんな感想を綴ります。

本記事は物語のオチ、未見の方の楽しみを奪う可能性のある決定的なネタバレが含まれます。ご注意ください。


 

 

 

 

 

 

 

 

とても小さな世界の、壮大なホラ話だった

「カンテグランデ なんばCITY店」にて撮影したポスターや劇中の写真集。映画との公式コラボをされていました。

まず端的に言ってしまうと、実はこの映画はとっても舞台が狭い。

映画宣伝文句やあらすじでは主人公アジャが青年期まで生活をするインドから始まり、フランス、イギリス、スペイン、イタリア・・・と各地を転々とする奇妙な旅が売りです。

しかし実際にご覧になった方はご存知のように、刑務所であわや青春の大事な時間を損ないそうになっている少年たちに「夢や希望、知識と教養」の大切さを説くお話でした。

最終的にオチがわかるラストにたどり着かなくとも、アジャの幼少期に、盲目のおじいさんが刑務所「外のお話」をしてくれた体験が披露されたときには、勘が良い人ならば「もしやこの映画は・・・。」と気づくかもしれませんね。

ダヌーシュの演技が光る

さて、この映画の根幹が「子どもたちに物語を聞かせる」という構造であるので、最も重要なのが読み聞かせる本人の魅力にかかってきます。

主人公を演じるのはダヌーシュ。個人的には初めて見る俳優さんでした。

いわゆる超絶イケメン&マッチョなタイプのボリウッドスター俳優ではなく、どちらかというと静かな演技が映える性格俳優な趣がありましたね。

知っている中だとイルファン・カーンやナワーズッディーン・シッディーキーに近いタイプでしょうか。

ただアクション映えは上に挙げた二人よりもすっごく良かったです。走った時の足のストライドの長いこと!さらに、その足を活かしたダンスシーンでのステップは素人目に見ても素晴らしかったですね。

このシーン、前段としてイギリスの警察署でのエセミュージカルが振りになっていて「やっと見たかった”本物”のダンス来た!歌も来た!」とテンション上がりました。観客を十二分にイラつかせたという点でいい仕事ができてました。

イタリアでの相手役を演じたベレス・ベジョもボリウッドダンスを遜色なくこなしていたのもプロの仕事だなーと感心いたしました。本家ボリウッドに比べると半分程度の短かさとはいえ、わりと満足なダンスパートでしたね!

「もっとやれた感」も否めない

短所としてダイジェスト感は否めなかったです。小説の映画化ゆえなのか、各エピソードの掘り下げがもう一つな上に、最終的なオチに集約されることもなく散漫した印象でした。

まずメインとして、アメリカからフランスへ渡ってきたヒロインであるマリーとアジャのロマンスの部分。

アジャが旅をする目的=「パリへなんとしても戻らねば!」を牽引する役なのですが、途中からは完全にアジャとの連絡がシャットアウトされてしまうので勿体無いなあと正直思ってしまいました。

公式より劇中曲「Angrezi Luv Shuv」。ロマンスシーンの詰まったダイジェスト。

パリで初めて会ったインテリアショップ(IKEAにしか見えない)での二人の掛け合いが絶妙だっただけに・・・。この掛け合いが再び会えた終盤に活きては来るものの、この要素一個だけなのが物足りなさがあります。

他にも「後に別の話につながるというパターンが少ない」というのは、本作の決定的な弱点でした。パリのぼったくりタクシー運転手ことギュスターヴおじさんと、リビアの難民ウィラージくらい。

前述したボリウッドダンスを披露したイタリアのエピソードは、それこそ「とある女優が復縁するまでのお話」として完全に閉じてしまっています。

子供に聞かせている与太話として、良しとするか否か

「カンテグランデ なんばCITY店」で撮影した公式ポスター。

一個の映画としては散逸的でどうかなあと思う一方で、これが「子供に聞かせている与太話」だと考えれば、個人的にはこれもありかなと思えるバランスでした。

映画の冒頭、学校に通い始めたアジャがそうであったように知識によって人生の世界観は大きく広がります。学校に通っていなければ「僕は貧乏なの!?」などと聞くことも出来ないわけで。

今の自分を知り、夢と目標を持ち、それを叶えるための方法を考えて実行する。この論法を端的に説明しつつ、フランス(原作者の出身国)を中心としたヨーロッパや、今現在の世界のあり方を皮肉と批判を交えながら子供にもわかるエピソード方式で披露していく。

各エピソードが散逸的で、一個ずつ閉じてしまっているのも「これは学校の大切さを教える話」「これは国と国境で置きている問題のお話」「これは普遍的な愛の話」と、教えたいことを明確化して分けているのだと考えられます。読み聞かせの教科書のようなこの構造は、素直に素晴らしいなと思いました。

そういう意味でラストの「本当の話か?」と聞かれて「重要なところはね」と答えたアジャのセリフ。

ありがちなオチとも思えましたが、荒唐無稽だったアクション部分や実際にやったら絶対に不可能or死ぬに決まっているヨーロッパ各地の移動方法(フランスからイギリスにトラックで移動、飛行機の貨物室で飛行中を過ごす)など、劇中で「ありえない」と思った大部分を納得させられたのでオールオッケーでした。

むしろこれぐらい大風呂敷を広げることがホラ話の醍醐味。背景で聞いていた大人である刑務所の看守すら「嘘か真か」と興味を持った時点でアジャの勝ち。

レンタル店で見かけたら、”また聞きたい”と思える「ホラ話映画」でした。

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のっち
ムービニアンズの丸い方。 趣味はゲーム・・・だったけど今はもっぱら映画鑑賞。 洋画を中心に、アニメ、ドラマをよく見る。 最近はインド映画も修行中! 今までに見た映画はこちら