上映時間:133分
原作:東野圭吾「マスカレード・ホテル」
監督:鈴木雅之
キャスト:木村拓哉 長澤まさみ 小日向文世など
1月18日 高槻アレックスシネマにて鑑賞 [ 75/100点 ]
原作:東野圭吾、木村拓哉と長澤まさみ主演の映画「マスカレード・ホテル」を見て参りました。
結論から言って誰にでも万遍なくオススメしたい快作娯楽作品でございました。
お話の進むテンポ、豪華絢爛な彩りの美術セット、シンメトリーを中心とした徹底した構図、どっしりとした俳優陣の演技などなど安心してみていられる映画です。
邦画だから、あるいは「どうせキムタクのTV映画でしょ?」みたいな偏見を持っている人も「あれ?これ結構いい映画じゃね?」とホクホクして帰ることができると思います。
ミステリ原作ということ、スター大集合映画という点では「オリエント急行殺人事件」に近いですが、あれよりもさらに軽い気持ちで楽しめる作品です。
では本作の魅力と面白さについて、原作小説未読の立場で綴りたいと思います。
本記事は物語にいくらか触れていますが、決定的なネタバレ(犯人など!)は含みません。
事件の結末を知りたい方はまず、映画館へGO!
目次
連続予告殺人事件をホテルの潜入捜査で解決せよ!

あらすじ
この映画は既に3つの連続殺人が起きてしまったところから始まります。
事件にはそれぞれ次の犯行場所を示す暗号が毎回置かれており、4つ目の犯行予告場所が映画の舞台となる「ホテル・コルテシア東京」です。
警察は捜査のために新田浩介(木村拓哉)を始めとした刑事たちをホテルマンとして潜入捜査を開始。それぞれの刑事にマンツーマンとしてホテルマンの振る舞いを指導する役目が付き、新田刑事には真面目なフロントクラーク山岸尚美(長澤まさみ)がつく。
人を疑い抜く刑事としてのクセはもちろん、本性として少し身勝手で気が荒い新田刑事。
一方の山岸は真面目なんだけど、徹底的に尽くすサービス精神ゆえに怪しいお客様にも疑いをかけることなく接するあぶなっかしさ。
この凸凹コンビで様々な難癖あるお客様に対してホテル業務をこなし、事件解決に向けて捜査していくお話です。
事件解決のカギはお客様
このホテルの潜入捜査で刑事とホテルマンが、同じ制服でサービスをしながら事件を操作するという、言ってしまえば珍妙な設定。
しかし事件解決のカギとなるのは「お客様をもてなす中で得られるヒント」と「バディ2人の信頼と絆」というシンプルな構成です。
待ち受ける3つのエピソードがカギ
ホテルの潜入捜査を描く物語の中盤にて、提示される3つのエピソードがあります。
・自身を盲目と主張する老婆
・新田刑事をいじめ倒すモンスタークレーマー
・ストーカーから付け狙われる女性
これらの難癖ある「お客様」たちを新田刑事が新米ホテルマンを演じながらおもてなし。時には殴り飛ばしたい気持ちを抑えつつも、次第にホテルマンとしての仕事ぶりに感化され、プロフェッショナルなおもてなしを心得ていくようになります。
これらのエピソードを乗り越えるごとに先に起きていた連続殺人のアリバイ工作や、ホテル・コルテシア東京で起きようとしている4つ目の殺人事件への糸口を掴んでいきます。
掴んだ糸口から地道に裏取り捜査するのは新田の元相棒である能勢さん(小日向文世)。捜査一課には内密で捜査し、時には新田の現相棒である山岸にアドバイスもくれるベテラン所轄刑事。
新田、山岸、能勢の3人の活躍で第4の殺人経緯や、犯人像について徐々に絞られます。
そして物語終盤に開かれるコルテシア東京での結婚式。
ここで事態は急展開を迎え、3つの困難を乗り越えた新田と山岸がお互いの職務人生を描けて犯行を阻止するために奔走し、まさかの犯人へとたどり着いていきます。
木村拓哉と長澤まさみ、その他豪華な出演!

主演2人の安心できる演技
劇中で終始画面の中心にいる2人である木村拓哉さんと長澤まさみさん。
今回の木村拓哉さんが扮する新田浩介は、どちらかというとオラつきが強めなタイプ。
よく「木村拓哉が演じると、どの役も木村拓哉」などと言われて、周囲の俳優から浮きすぎた演技が指摘されるし、今回も演技の風味はよく見る木村拓哉さんで相違ないです。
しかし今回は周りを固める俳優陣がかなり硬派な芝居をしているため、木村拓哉流のお芝居が浮かないどころか、ストーリーを船頭役として引っ張るほどによく馴染み、見ていて安心できます。
特に新田刑事が属する捜査一課の上司、同僚たちとの「プロ意識の高い体育会系のノリ」が小気味よいです。
優秀な新田刑事を妨害しすぎるでもなく、援護しすぎることもない。お互いが適切な距離感で仕事している、そんなイカツイ男たち。この組織で揉まれてきた刑事なんだな、と木村拓哉流の役作りがキャラとして活きているように思います。
また元相棒を演じる小日向文世さんもコミカルな部分は一切抑えて、木村拓哉さんの切れ味するどい語気を、絶妙な間と呼吸を挟んでいなしつつ、主役を引き立てている。
そして木村拓哉さんをホテルマンとして指導することになる長澤まさみさんも、対等な演技力で凸凹コンビの絶妙な仲の良い喧嘩を見せてくれる。
長澤まさみさんのややオーバーな演技も、ホテルマンとして接客をこなす真面目なサービス姿勢や営業スマイルとマッチしてて、ここも適した配役のように見えました。
ホテルにやってくる「お客様」も豪華な顔ぶれ
スター大集合映画でもある本作。まさしくゲストとして登場する俳優陣も豪華。
製作が同じフジテレビの番組「痛快TV スカッとジャパン」に出てきそうなクレーマーたちの演技は、見ていて本気でハラワタ煮えくり返りそうになるので必見です。
クレーマーなお客だけ名前をあげても、濱田岳、笹野高史、高嶋政宏、菜々緒、生瀬勝久となかなかに個性的で豪華です。というか全員揃ってアクが濃すぎ。
加えて「お客様」の中には当然ながら、これからホテル内で殺人を試みようとする犯人もいる。
事前知識がなければ潜入捜査という設定と相まって、少なくともこのゲストたちが出てくる度にその表情や演技を注視したくなるお芝居を見せてくれます。
アっと驚く犯人が誰なのかはぜひとも自分で見るべし!私個人的にはかなり納得の人選だったと感じております。
娯楽作品としてなかなか優秀!

OPからテンポと見せ方が素晴らしい
本作「マスカレード・ホテル」はまずオープニングの見せ方がイイ!
オープニングは黒と金色とワンポイントの赤を基調とした豪華絢爛なホテルと、コンクリート色な淡白な捜査一課の会議を交互に見せながら、既に起こった殺人事件や潜入捜査開始までの経緯を説明。
あらかた説明がすむと、画面は大規模美術セットのホテルロビーを天井から見下ろしつつ、シャンデリアなどを避けながら天井を這うように移動。
今回の主な舞台となるロビーの空間関係をしっかり見せている。
そして山岸と新田がホテルのロビーですれ違い、画面に合流。そこで「マスカレード・ホテル」のタイトルロゴを呼び込む。
実際にこのオープニングを見た時に「これは安心して見れる映画だな」とホッとさせてくれる、ベタながら丁寧な演出でした。
シンメトリーを基調とした演出、力の入った画面づくり
映画の7割と言っていいくらいに登場するこのフロントロビーはセット自体がシンメトリーを意識されており、画面としてカチッとした硬い印象をあたえてくれる。色も先述したように黒と金が主体の絢爛でありながら落ち着く印象です。
逆に警察組やホテルのバックヤードは白や打ちっぱなしの壁が主体。
この見た目で瞬時にわかる2つの舞台を行ったり来たりするので、視覚的な分かりやすさがよくできていると思います。
さらにこうした美術セットのデザインだけでなく、主役の新田、山岸が対話するときもシンメトリーな構図で対峙することが多いです。この辺りにとにかく一貫性がある。
同じ鈴木雅之監督の作品「HERO」だとここに、言っちゃ悪いですけどしょうもないTVドラマ的茶化しギャグが挟まれて、緊張感が台無しだったりする。しかし今回はそういうのもなく、比較的シリアスにお話を進行させていきます。
映画的な笑いは用意されているけども、静かにふふっとなる程度なのでここも映画として行儀がよくて好感が持てます。
序盤の「新田が散髪をさせられるくだり」は、新田と山岸の会話するショットの切り返しから、バックヤードの奥行きを取り入れた画面構成までを上手に使っていて、演技と編集のタイミングの良さもあって映画的な笑いのツボがおさえられています。
TVドラマ的演出を武器に変えている
いわゆるテレビ局手動のドラマ映画にありがちな問題として、個人的には以下のようなものが有ると思います。
・扱う問題の規模の割にスケール感がない
・感動げな演出を入れたがる
まず本作のスケール感に関して言うと、すごく身の丈に合った形に落とし込んだなという印象です。
成功の要因はホテルとして実在感、説得力があるセットデザインだったことが一つ。
そして場面として必要なのがほぼ「ホテル正面入口」「ロビー」「客室と廊下」「バックヤード」で済むストーリーであることが、理由としてあげられます。
最低限の場面で済むというこの舞台劇のような構成。後述するエピローグ演出もあって、やはり舞台劇のようなコンパクトさがあって見やすいです。
さらにロビーやホテル内の構造を、アクション場面で人物が空間を移動していくところをちゃんと見せる。なので自然と架空のホテルがちゃんと実在するように見えるし、一定のリアリティも保たれています。ここも映画として視聴に耐えうるポイントです。
減点な演出がまさかの好印象に
次に感動げな演出ですが、ここは正直言うと減点・・・。
先にあげた中盤の3つのエピソードがくどいです。
毎回のごとく同じ感動的BGMを流して、主役2人がお辞儀してお客様をお見送りする。これを全く同じ演出で3回やるのはなんとかしてほしかったです。
ただし各エピソードが終わるごとに、わざと余韻を早めに潰すことでカバーもしています。
例えば盲目の老婆が帰ったあと余韻に浸るのかと思った次のカットで、唐突に殺人事件の白黒犯行シーンが映し出される。チープな感動演出で終わらせずにさっさと物語を前進する姿勢は素晴らしかったですし好みです。
他のエピソードについても困難を乗り越える中で得たヒントをすぐに殺人事件の捜査にリンクさせて、お話の停滞を最小限にしようという努力が見受けられます。
さらに終盤、このくどい感動げお見送り3連発を前振りとして機能させることで有益な武器に変えています。
この映画の事件を解決したあとのラスト、新田刑事が捜査を終えて山岸に見送られるシーンです。
「お客様」が気持ちよくホテルで過ごして出ていったあと、その「お客様」はホテルに対してどういう感情を抱くのか。これを「見ていてとても清々しい、とあるアクション」で木村拓哉さんが見せてくれます。ここは男として惚れ惚れするぐらいカッコイイ!
しかも物語的にも「OPで新田刑事がホテルに初めて入る時がどういう態度だったか」と対比になっているのです。映画としてベタですが、きちっとキャラの成長をアクションで表現しています。
くどいくらいに3度も同じお客様の見送りをしたからこそ、最後に見送られる主人公が活きてくるので、マイナスな部分も最終的に好印象に転じていました。
まとめ
本作の減点として、ホテルにやってくる「お客様」の人間模様やその深みなどが全くイマイチ。もっと掘り下げて立派な感動演出に昇華できる余地はありました。
この記事で書いたようなエピソードはもちろん、ラスト周りもちょっと淡白に感じます。
他にもミステリ部分の捜査にしても能勢さんが優秀すぎないかとか、既に起きた事件の説明がちょっと頭に入りづらいなど、言いたいことはあります。
ただそれを補って余る娯楽作としての良さが「マスカレード・ホテル」にはあります。サクッと見る映画として丁度いいくらいのオモテナシだったので個人的には満足。
あと中世絵画ナイズドされた印象的なシーンが映し出されるエンドロールの演出。あれによってこの映画が一つの寓話世界、歌劇のような限定的なスケールながら誇張されたドラマとして印象付けられました。
つまりあのマスカレードなエンドロールが有ることで「多少の穴はあるけど、こじんまりしつつも華やかなお話で楽しいからイイよね!」って思えるのです。
このように丁寧なスクリーンからのお見送りまで用意された「マスカレード・ホテル」。
「いつものキムタク映画でしょ」と侮っているアナタや、1月にまだ何も見る映画がなかったそこのアナタ。
気軽に見るにはもってこいの万人向け作品がここにありますよ!


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