上映時間:111分
監督:今石洋之
原作:TRIGGER、中島かずき
脚本:中島かずき
キャラクターデザイン:コヤマシゲト
キャスト:松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人、ケンドーコバヤシ、古田新太など
あらすじ
「天元突破グレンラガン」「キルラキル」を生み出した今石洋之監督と脚本家の中島かずきが再びタッグを組んで送り出す、完全オリジナルの劇場用アニメーション。
突然変異で誕生した炎を操る人種「バーニッシュ」の出現をきっかけに、未曾有の大惨事である「世界大炎上」が起こり、世界の半分が焼失した。
それから30年後、一部の攻撃的なバーニッシュが「マッドバーニッシュ」を名乗り、再び世界を危機に陥れる。これにより、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊「バーニングレスキュー」の新人隊員ガロと、マッドバーニッシュのリーダー、リオという、それぞれ信念を持った熱い2人の男がぶつかり合うことになる。
主人公ガロに松山ケンイチ、宿敵リオに早乙女太一、そしてガロの上司クレイに堺雅人と実力派俳優が声の出演。アニメーション制作は「キルラキル」も手がけたTRIGGER。
引用元:https://eiga.com/movie/90008/
5月25日 イオンシネマ大日にて鑑賞 [ 55/100点 ]
「天元突破グレンラガン」「キルラキル」などで知られる今石洋之監督&脚本家で作家の中島かずきコンビによる新作アニメ映画「プロメア」!
テレビで放映していた作品の劇場版というわけでもなく、本作を見に行く文脈としてはやはり上記の今石アニメ作品やアニメ制作会社TRIGGERの背景を知っているかが大きいかと思います。
ご多分にもれず私も放映から一年遅れて「キルラキル」にハマってBD全巻とラジオCDを購入、その後に「グレンラガン」をすべて見て、リアルタイムで見た今石監督作品としては「宇宙パトロールルル子」。また中島かずき脚本のアニメでは「クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」、「ニンジャバットマン」も視聴しています。
(本ページの情報は2019年5月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT
サイトにてご確認ください。)
そんなこんなで、上記の作品群を観てきたという前提で今回観賞した単独オリジナルアニメ映画「プロメア」。
先に結論を申し上げると「めちゃめちゃ凄い画だけど、面白くない」というのが所感でした。
その理由をレビューとして以下に綴ります。
本記事はネタバレが含まれます。ご注意ください。
アニメの表現力は追随を許さず凄い
冒頭で面白くなかったと書きましたが、本作「プロメア」で言いたいのは各部分だけを取り上げると、とても素晴らしいです。
まずアニメとして一つ重要な点だと思うのが、「見ていて心地が良いか」ということ。
これはメカの動きが「ガチャガチャ、パキン!」とメリハリよく変形したりだとか。あるいは人間キャラの動きが通常では有り得ない動作ではあるけども、その動きを眺めているだけで「楽しい」と思えるかどうかです。
「プロメア」で好きな例でいうと、冒頭のマッドバーニッシュのリーダーことリオ君の捕獲シーンです。
バラバラになったマトイテッカーでリオ君を拘束するここの機械ギミック感とカートゥーンぽい戯画感は最高に「今石アニメいいなあ、好きだわあ・・・」となりました。
その他にキャラや主要な部分でなくとも、エフェクトの効き方、背景美術の良さ、色調のオリジナリティや塗りのタッチ・・・様々にあると思います。
そういう意味で今回の「プロメア」を見ると、やはり超一流のお仕事だなと感じました。どの部分も見ていて心地はいい、迫力もある、ケレン味の嵐でたまらんなあ・・・と。
しかも今回は前からTRIGGERとタッグを組んでいた3DCG制作会社サンジゲンによる3Dモデルのアニメも全面に押し出して、近年の本流たる2Dアニメと3Dアニメの融合を成そうという志の高さも光りました。
パンフレットによると3D部分との差をなくすために2Dアニメをベタ塗り調にしているそうですが、今回の柔らかい輪郭のキャラクターデザインとも合っていました。優しい色調と合わせてこの部分も好きでしたね。
なのでそういう見た目の良さだけを取れば、個人的には100点なんか突き抜けて200点です。劇場の大スクリーンでこのアニメを見られたことはとても嬉しく思います。
ただし・・・
「盛りすぎ」→「良くわからない」の悪循環
ハッキリ言って盛りすぎです。
本来の今石アニメならこの盛りすぎ感、褒め言葉だと思います。「キルラキル」なら数話ごとに最終回じゃないかってくらいに盛り込んだあの熱量など、最高にいい方へいい方へと流れができていました。
しかし今回は完全に悪い方向で盛りすぎです。私個人の意見ですが、残念ながら全く褒められない意味で盛り過ぎだと感じました。
この盛りすぎ感を「楽しい」と思えるかが本作の分水嶺かなと思うのですが・・・。
本記事では以下、この部分を「楽しくない」という前提に立って書いているのであしからず。
肝心の戦闘シーンが、何をやっているかわからない

本作のパンフレットを読むと「ロボットアニメや、幼い主人公の成長期的なものではなく、SFアクションものをやりたかった」という旨の今石さんへのインタビュー記事が書かれています。
中島かずき氏のインタビューでも「(今石監督は)アクションをやりたかったみたいだね」と、二転三転した脚本の設定が最終的に本作「プロメア」になった経緯の中で語られていました。
で、あるならば。
肝心なアクションの大立ち回り、バーニングレスキューやバーニッシュのアクションを始めとする戦闘シーンはもう少し見やすく出来なかったのかと。個人的にはそんなノイズを抱えながら、少なくとも中盤からは飽き飽きした気持ちになりかけて見ていました。
序盤のバーニンレスキューはまだ目新しさが勝っていたので良かったのですが、どの場面でもとにかく矢継ぎ早、急ぎすぎです。タメがまったくなし。
さらに乱戦となった時の「今戦っているキャラは、空間のどこで戦っているのか」が全くわからず、どこへ向かって走り、吹き飛ばされているのか全く伝わってきませんでした。
理由としては、過剰に入る爆発エフェクトで肝心のキャラの居場所を見失うことや、目線の導線が乱雑に散ってしまっているように思います。
さらにさらに、こういう状況に加えて3Dモデルであることを活かすためでしょうか。戦っているキャラの左右の立ち位置などをぐるぐるカメラを回して、頻繁に入れ替える。
方向感覚見失わせるばかりか、状況把握のためにこちらの脳も処理に使わされている感が甚だしく、こちらの集中力も削がれて映画に没頭できませんでした。
私はこれらの過剰演出は、本作「プロメア」の面白さに全く寄与していないと思います。むしろ大きく足を引っ張っているのではと思います。
一様に、なんなら一本調子に最終の戦闘まで変わらないので、個人的に一番好きなのは戦闘シーンではありません。氷上で主人公ガロとヒロインのアイナがスケートをするシーンでした。
過剰じゃなく、陰影の移り変わりをゆっくり見せ、四角いレンズフレアという不可思議なデザインを見せる・・・。本作独特の味をゆっくり楽しめる場所は、もっと欲しかったなと思うのです。
引き算ができない失敗
過剰な盛りすぎは画だけでなく、ストーリー展開やキャラクターにも言えると思います。バーニンレスキューの面々、特にレミーとバリスは要らないのではないでしょうか。
冒頭の救出活動、重要な”火消し”はチームものとして面白かったですし、先にも書いたリオ君の捕獲シーンは楽しかったです。
しかしこのあと、このチームの面々は完全に傍観者です。現状の2時間で終わり切る「プロメア」としては、バーニングレスキューの活躍は必要ない要素になっていると断言します。
最低限にもしルチアが役目を担っている博士キャラがマトイテッカー周りで必要だとしても、その博士キャラの能力をイグニス隊長かアイナに付与してあげれば、十分にお話が展開できてしまう・・・という大きな問題が存在しています。
このことは今石監督も承知の上のようで、インタビューでもチーム要素はあえて最初だけに「抑えて」、後半はガロとリオに焦点を絞ったことが述べられています。
TVアニメで1クール以上やるならまだしも、映画作品としてあまりに中途半端な決断になっていると私は言いたいです。
キャラデザも含めて、単に「キルラキル」でご縁が合った人たちに役を用意してあげただけ、に留まっているとまで思います。内輪ネタでオチがついてしまっているのが惜しいのです。
最終局面で何かしらチームの面々が、クレイとのラスボス戦あたりで直接的に機能するようなシーンは欲しかったところです。
2時間という短い尺の中で、後に役に立たない要素を入れるということはとにかく勿体無いです。
同様のことはマッドバーニッシュにおけるリオの両腕、ゲーラとメイスにも言えます。後半は居なくていい存在ということがハッキリしています。
またキャラだけでなく、どこかで見たような演出も多すぎです。
パンフレットによれば「これまでの今石アニメ要素を全部入れるという裏テーマ」があったと書かれています。しかし、ここまでの不満点と相まって内輪ネタで盛り上がっているようにしか見えなかったです。
冒頭で述べたように対象とする観客は今石アニメ文脈で来る人が大半なので、間違った判断とは言いませんが、今回は面白くなかったです。
同じ中島脚本でも「ニンジャバットマン」、あるいは世界の最先端には「スパイダーマン:スパイダーバース」のような尖った表現のアニメ作品はいくらでもあるわけで、内輪ネタ総決算に甘んじた「プロメア」は折角の単独映画というチャンスを損じているのではないでしょうか。

逆にガロは「物足りない」
言い方を変えると、もうひとりの主人公リオに比べて「感情移入できない(支持できない)」キャラクターになっていることが否めません。
主要な原因としてはやはり追い込み不足です。ガロが追い詰められるシーン、困窮する場面がなさ過ぎます。
バカがガンガン壁を突き破って走って行くのが気持ちいい・・・かと思いきや、基本的に突っ走ってばかりでカタルシスになっていません。
「子供の頃に助けられたクレイに裏切られた」という落ち込みげな場面もあるのですが、描写の足りなさで見るからに怪しいやつに騙されてしまっただけに留まっています。(というか細目の成り上がり独裁者マッチョを堺雅人さんが演じてたら、どう考えたって騙される方が悪いでしょ!おバカ!)
加えて拘留された後の脱出は、結局リオがマグマとバーニッシュの力で暴走したことによる偶然頼み。なんでここをレスキューチームが助けに来るとか、自己の葛藤を乗り越えて、とかに出来なかったのかと。
一方のリオが「大事な仲間と生活拠点を殺さない虐殺で奪われる」という散々な目に会った後の怒り爆発なので、直情的に理解しやすい作りです。
ガロにもこの、徹底的に追い詰めてからのアクションが欲しいのです。
リオのこのシーンは「そりゃ怒って当然だわ」と理解できるアクションであり、後の場面でその怒りを収める過程を描くことで、劇中での成長も表現できています。こうなると有機的に連鎖してその後もアクションができるので、気持ち良い主人公として存在感が生まれます。
ガロ周りに関してだけ「何故か勝手に解決する身勝手なやつ」というのが正直いけ好かないし、なんなら個人的には嫌いなタイプの主人公です。そういう意味で彼は本当に「物足りない」。
MVPはクレイを演じる俳優・堺雅人

主要な三人の人物を俳優が本職な早乙女太一さん、松山ケンイチさん、堺雅人さんらが演じていました。
とりわけラスボス役クレイ・フォーサイトの堺雅人さんは本作のMVPでした。これは中島かずき脚本による、ほぼあて書きという部分も功を奏しているのでしょう。
序盤の静的で落ち着いた態度からの、ラストの狂乱した人格までの振り切り方が素晴らしかったですね。ガロが物足りない分、ラスボスが魅力ある存在としてどっしり構えてくれていたのが安心感がありました。
さらに、そうした振り切り方をする中で、本作で最も聞き取りやすい日本語を披露していたのも堺雅人さんでした。一言一句の発音がとかく綺麗で、これを堪能するだけで十分にもとが取れたかと思います。
このめちゃ綺麗な日本語で「滅殺開墾ビーーーーム!!」を言われたら面白いに決まってます、最高でした。
そもそもクレイが、ちゃんと移住先を考慮したギミックしか使っていない、乗員の安全を確保して戦っている、など最後の最後まで理性的であろうとしたキャラというのも適役だったのかもしれません。
堺雅人さんには及ばなかったものの、主人公を演じられたお二人も違和感なく演技を楽しめました。ただ一点、やはり声を張った時の聞き取りづらい部分がいくつかあったことで、どうしても比べてしまった印象です。
まとめ:TV2クール以上で再編を希望します!
ということで今回の結論としては「画は凄いけど、映画作品としては面白くない」です。
今作「プロメア」はどうしても「TV放送を想定した設定とキャラの盛り込み」と「2時間作品としての割り切り」がどっちつかずの、中途半端に終った感が否めません。
ただ完全オリジナルで、しかもテレビ放送も経ずに上映という挑戦は素晴らしいです。今後もそういう作品は見たいと思います。
主要な腕のあるスタッフ、出演されている俳優陣の再集結は非常にハードルは高いかもしれませんが、2クールほど確保した上でじっくり「プロメア」の世界観を堪能しながら見られる放映作品を希望します。



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