原作:海法紀光 千葉サドル
上映時間:101分
監督:柴田一成
キャスト:阿部菜々実 長月翠 間島和奏 清原梨央 おのののか など
あらすじ
あらすじ:2015年にテレビアニメ化もされて話題となった、海法紀光と千葉サドルによる異色学園ホラーマンガを実写映画化。秋元康プロデュースによるオーディション番組から誕生したアイドル「ラストアイドルファミリー」の阿部菜々実、長月翠、間島和奏、清原梨央の4人がメインキャストを演じ、「リアル鬼ごっこ」の柴田一成監督がメガホンをとった。私立巡ヶ丘学院高等学校・学園生活部。シャベルを愛する胡桃、ムードメーカーの由紀、リーダー的存在の悠里、この部活に所属している彼女たちは学校で寝泊まりし、24時間共同生活を送る「がっこうぐらし」を満喫していた。屋上の菜園で野菜をつくり、みんなと一緒にご飯を食べて、おしゃべりをする。
そんな楽しい彼女たちの学園生活が、校舎にはびこる「かれら」の存在によって一変する。大量の「かれら」の襲撃に、彼女たちだけで立ち向かうこととなるが……。
引用元:https://eiga.com/movie/89075/
1月13日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞 [ 55/100点 ]
主演4人と監督の舞台挨拶付き先行上映にて見てまいりました。
あらかじめ言っておきたいのが、私自身はアニメ化当時に序盤の数話を見たきりでそれ以上に原作の展開は知りません。
企画の発表当初、あるいはポスター、予告編、去年暮れの先行試写の異様な絶賛があるたびに、いわゆる「炎上案件」と化している本作。ぶっちゃけるとそういった「がっこうぐらし!」の実写化にネガティブな話題で気になって見に行ったのが本音です。
今回の大阪先行上映が決まってから柴田一成監督・脚本作品である「リアル鬼ごっこ」1作目を予習したものの、それ以上のことは何も頭に入れずに見に行きました。
で感想としてどうだったかというと、
『何が「カメラを止めるな!」級サプライズだ馬鹿野郎!序盤からバレバレだし、ラストだってちっとも泣けねえよ!!』
と、事前の褒め殺し評判を語っていた人達に540°くらい首をひねりながら苛立つ一方で
『予告編だけで叩いてんじゃねえよ!アイドル映画として成功してるし、割と頑張ってんじゃん!てか柴田一成監督かなりマシになってんじゃん!主演4人も頑張ってるじゃん!無闇な中傷はやめろ!!』
という想いが相殺しあって複雑な気持ちの55点であります。(個人的には誠実さのかけらもない映画関係者のスペイン旅行に消費された「ジョジョ4部の実写化」に比べれば100倍マシ。)
ただしこの映画を一言で述べると「真摯に映画を作っているけど、単純に下手」が妥当です。真面目だけど、足りてない、気がきいてない、面白くない・・・etc。
本記事はこれらの所感を抱いた理由についてさくっと綴りたいと思います。
映画の内容(特にラスト付近)に関わる決定的なネタバレは避けていますが、記事作成時点では一般公開前なのでご覧になる方はご注意ください。
目次
アイドル映画として成功
「アイドル可愛い」を少し理解できた
この映画の【良いところ】を真っ先に上げろと言われれば「アイドル可愛い」について少し理解が出来たことです。
まず冒頭に書いたとおり、私自身はアニメ版をリアルタイム配信時にニコニコ動画で数話見てから離脱したクチです。なのでアニメ第一話におけるビックリなアレは知っています。ええ、知っていますともそれくらい。
ただしそのサプライズで止まっていて「がっこうぐらし!」本来の原作の面白さ、その真髄を見たとは言えないことを自覚しています。
加えてアイドルというものについて興味が今日までの人生で全く有りません。私にとってのアイドルはゲームでしたし、特定の有名人を追いかけるとかいうこともほぼ経験はないです。
走る、呼吸する高校生を切り取る青春映画の側面
事前に見た柴田一成 脚本・監督作品「リアル鬼ごっこ」との共通点として、走る若者を切り取ってみせるその姿勢が好感を持てます(ただし「リアル鬼ごっこ」全体の粗野な質はかなり遠いところに置いといての話ですが)。
演技の未熟な主演陣を活かすために、必死に生き延びようとするときの呼吸であったり、真剣な眼差しだったり、その瞬間の若者にしかできない画を切り取って魅せるというのはアイドル映画には必須項目ではないかと思います。
その意味では今回の実写版「がっこうぐらし!」も、大成功じゃないでしょうか。
実質主人公として物語の主軸を担ったくるみ役の阿部菜々実さん。彼女のアクションの切れ、諦めずに走り、戦い続けるひたむきさを押し出した部分は特に良かったです。
正直に言えば序盤の平和だった日常シーンにおける演技でかな~~~~~~~~り不安になりましたが、アクション見せ場での頑張りでお釣りが来るほどのキレを見せています。全力で動けるという辺りは素直に褒められる点です。
アクション以外でも彼女たちの何気ない仕草の映え方は、例えば制服の合間から垣間見える「引き締まった素肌」だったり、あるいはシリアスなセリフを言いよどむ時の「ひと呼吸の音」であるとかは実に瑞々しく感じます。
まさに生きている青春真っ只中の理想の高校生(若者)を見せるというお題目が達成できているし、至極その描写ひとつひとつは丁寧です。フェアに申し上げて、こういった部分を見るために本作を観賞する価値はあります。
アクションシーンがいい!
先ほどの阿部菜々実さんも含め、アクションシーンに関しては率直に言うとアガってしまう自分がいました。なかなか緊迫感ありましたよ。
くるみの走りとシャベルアクションは先述の通り、キレキレに”彼ら”を殴り回していたので合格!
あと個人的に好きなところだと、清原梨央さん演じるみーくんのバールアクション。バールの鎌のように曲がった鉤爪部の使い方がバイオレンスでいいです。
しっかりと鎌の構造を活かして、
1:相手の首に曲がった鉤爪部分をぶっ刺す
2:ぐぐっと自分側に引き寄せつつ
3:横に投げ払う!or引き倒す!
なんて動きをアイドルにやらせる。ちゃんとバールを使って戦っている感がある。アクション映画好きとしてこのちょっとした暴力性を感じる振り付けをさせていることが、かなり好感があります。
あとは血しぶきが飛ぶなりするともっと良かったんですが、さすがに無理だったのでしょうか。主演の彼女たちが「よろしくで~す」
ともかく「尊い青春を活きるアイドル」と、複雑な振り付けに対応可能な「動けるアイドル」の両側面を映画作品として活かしているという点で、私は最大限に褒められると考えています。
・・・問題はそれら【良いところ】以外の部分では、忖度なしに安心して見れない点ですが。
柴田一成監督の戦略とは
キャスティングはまた良いのだが
舞台挨拶にて25人のラストアイドル第一期メンバーの中からオーディションを行ったお話や、演技プランについて監督とミーティングがあったことなどの興味深いお話がありました。
阿部菜々美さんがオーディションですっ転んで靭帯を損傷し、そのお陰かどうかわかりませんが、実質主演のくるみ役をゲットできたとのこと。実は今回の映画本編でも”転ぶ”ことがキーになっていました。
また学園生活部のリーダーであるりーさん役の間島和奏さんは監督とシーンごとの意味や演技のプランについて、綿密に打ち合わせていたことを話されていました。
作品全体の方向性まで見据えて役作りをしていたことを舞台挨拶でハキハキとお話されていた所を拝見するに、確かにリーダー役として適切な配置だと思います。
舞台挨拶での受け答えが不思議ちゃんだったゆき役の長月翠さんも、本編中の不気味な笑顔はスクリーンにも映えいていてチャームがありました。可愛くニコやかだけど不穏。そういう微妙なニュアンスを出せていました。
脚本も担当された柴田監督が選考に一応関わっていたようなので、本人そのものの資質に対して適切な役の配置や戦略、アプローチについて真摯に考えられていたようです。
「がっこうぐらし!」を実写化するにあたって、ラストアイドルのメンバーしか選べないという条件を最大限みているこちらが譲歩してあげれば、なんとか納得はできるとは思います。
会話パートが本気で面白くない
キャストについて色んな力学が働いたことを仮に「これで良し」としてしたところで、問題はやはり見ていて違和感のある説明ゼリフ。
そもそも演技経験がないので普通の会話がぎこちない。しかもキャラの性格を説明するための普通じゃ絶対にしない会話の数々、あるいは後の伏線のタメにする会話が多すぎて、演技の未熟さを際立たせてイラッとする。
「リアル鬼ごっこ」なら例えば柄本明さん級の俳優なら違和感なく演じることも可能かもしれないけど、そんなレベルを要求するのは無理なわけで。実写映画にする戦略としてここはもっとカバーしてあげられなかったかと思ってしまいます。
いわゆる女子同士のユルイ会話やギャグのやりとりも、映画的に面白いとは全く思えない。ハイ、ここ笑うとこですよ~なお膳立てがなんとも・・・。
ナチュラルな女の子同士の会話の機微を奪ってしまって、この映画の魅力になりうる武器を鈍らせてしまっている。さすがに「リズと青い鳥
逆にピンチに陥った時のアクション、そこからのトラウマを乗り越えたり絆を深めていく描写はセリフが少ないので、彼女たちの表情の力が引き出せているんです。
会話の面白くなさはこの作品の伸びしろになり得るからこそ、ここの脚本および演出が私は嫌いです。
脚本全体のバラバラ感
もうひとつ目についたのが、シークエンスごとのバラバラ感です。
この実写版「がっこうぐらし!」は基本的に以下の繰り返しです。
【主要人物の会話シーン】
↓
【ピンチ到来!】
↓
【アクションシーンで乗り越える!】
↓
【主要人物の成長 or お互いの絆を深める】
これを繰り返すことを自体はいいんです。
問題は、成長や絆を深めたことが全く【次のピンチ】に活かされていかないこと!
いろんなクエスト(お題)をクリアして「よかったね~」と言って終わる。そして次のクエストが始まっては「よかったね~」と言って終わる。その繰り返し作業感と言ったら。
これを延々と繰り返すし、しかも先述したように会話パートが全く面白みにかけて、せっかく質が高めなアクションシーンの高揚感が次に繋がらない。盛り上がったところで面白くない、しかもユルすぎる会話を挟まないでほしい。
一時的にググッと推進力を高めては減速。さらに進んでまた減速。ちっともお話に推進力をもたらしてくれない。
シーンだけを見れば(会話パートは嫌いだけど)悪くないし、泣きはしないけどそこそこ感動もするし納得。でも次につながらないので、最終局面へ向けてどんどん加速してカタルシスにつながる構成にはなっていません。
連続ドラマのように、1話ずつにお話をぶつ切りされているような感覚です。単純に100分の映画のストーリー構成として弱くなっているのが残念。
一応今回の「がっこうぐらし!」はラスト向けて一貫して丹念に隠しているある仕掛けが用意されてはいるものの・・・年末の試写会で話題になったのもおそらくそこなんでしょうけど・・・。
でもアニメ数話しか見たことなくて、そのネタ自体は全く知らない初見でも簡単に見抜ける仕掛けで、残念ながら途中でその秘密を隠す演出が白々しく見えてしまいました。
そのおかげもあってか、せいぜいラストのシークエンスは「劇中のいくつかあるエピソードの中で一番感動しやすいお話」程度の感動。ひとつの大きな「がっこうぐらし!」というストーリーとしてまとまりがないです。
深掘りするとこの辺りはネタバレ必須なので今はコレ以上言いませんが、とにかく惜しいし残念だし、真面目にやろうとしているだけに・・・。
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最後に言いたいこと
予告編やポスターだけで叩くのは絶対に間違っている
漫画やアニメの実写化全般についてではなく、あくまでこの「がっこうぐらし!」については内容を見ずに叩くのは絶対に間違っている作品だと言えます。
後々には「ゾンビものジャンルで百合的な女子の関係性を描いた貴重な作品があって・・・」と評価される余地が十分にあります。
あるいは私のように「アイドル映画ってそんなに悪くないかも」と少しばかり心が動く人もいるかも知れません。
それだけフェアに申して、今回の座組としては「アイドル映画として狙い通りに目標を達成できている」・・・と言えなくもない。
言い切れないのはギリ及第点だからだけども、そこまでひどいわけではない。映画化する価値はそこにちゃんとあったと私は断言します。
た・だ・し!
映画本編がのうのうと「原作を見ていない人向けの演出」をしているにも関わらず、予告編やポスターが一定のネタバレを平然と行うチグハグは最悪。
あの宣伝を行うなら、本編は原作を知っていても面白くなるレベルまで到達しなければ納得なんか出来ないだろう。というか「がっこうぐらし!」のネームバリューを借りているのだから、知らない人向けの演出や秘密のひた隠しだけでラストを盛り上げるのは無謀です。
あるいは本編があくまであの構成にこだわったのだとしたら、それが原作を尊重する監督の意向なのだとしたら、なぜそこに協力して宣伝しないのか。
今回の本編クレジットを見るに、予告編などを担当したのは監督以外の人物の名前が明示されていましたが、果たして誰の戦略でどういう意向なのか。質疑応答できたら真っ先に聞いていたはず。
少なくとも本編を見て、この作品に一定の価値があると思うからこそ、あの宣伝方針を打ち出したのは明確に大失敗です。
実写版としてオススメできるレベルでもない
じゃあこの作品の良いところだけをもって、オススメできるかと言うとそうではありません。私は自信を持って「誰かにこの作品を見てほしい」と現状では口が裂けても言えません。
あくまで「アイドル映画として成功」しているだけで、アイドル映画として「がっこうぐらし!」が消費されたと言い換えてもいい。
実写化に付きまとう問題として、一度実写化してしまうと十数年は再度企画が立ち上がらない可能性が高いということ。映画という媒体で「がっこうぐらし!」の面白さを伝える機会をこれで失った可能性がある。
その重みに応えたクオリティには明らかに到達できていないと私は思います。少なくとも「実写化として大傑作」なんてボンクラな映画好きの私ですら絶対言えない。
映画を舐めんな!こんなもんじゃねえよ!
もっと面白くなる余地はいっっっっっっっくらでもあるやんけ!!!
今後実写化される作品がこのレベルで満足してほしくないし、貴重な映画化の機会をこの程度で礼賛するのも納得行かない。
企画段階から含めてこのような映画が完全肯定されて量産される世界なんて絶対許せないし、そんな世界は呪ってやる!
そっと評価されるべき作品
本編を見た上での私の所感はここまで述べたとおりです。
炎上的な反応をするには大げさすぎるし本作が余りにも可哀相。かといってそれを擁護できるほど内容を伴っているとは言えませんし、擁護したくもありません。
「全く違ったタイトルで原作付きでもなく、ミニシアターでひっそり上映されていればしっかりと評価された佳作」くらいが妥当でしょうか。
イタズラな大人の事情で、これ以上彼女たちの学園生活が余計に脅かされないことを祈るばかりです。

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