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【レオパルドンも登場!?】映画「スパイダーマン:スパイダーバース」解説レビュー【ネタバレ】

スパイダーマン:スパイダーバース

原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse
上映時間:117分
監督:ボブ・ペルシケッティ ピーター・ラムジー ロドニー・ロスマン
キャスト:シャメイク・ムーア ジェイク・ジョンソン ヘイリー・スタインフェルド ニコラス・ケイジなど
吹き替え:小野賢章 宮野真守 悠木碧 大塚明夫など

あらすじ

時空が歪められたことにより、異なる次元で活躍するスパイダーマンたちが集められた世界を舞台に、主人公の少年マイルスがスパイダーマンとして成長していく姿を描いた長編アニメーション映画。

ニューヨーク・ブルックリンの名門私立校に通う中学生のマイルス・モラレス。実は彼はスパイダーマンでもあるのだが、まだその力をうまくコントロールできずにいた。

そんな中、何者かによって時空が歪めらる事態が発生。それにより、全く異なる次元で活躍するさまざまなスパイダーマンたちがマイルスの世界に集まる。そこで長年スパイダーマンとして活躍するピーター・パーカーと出会ったマイルスは、ピーターの指導の下で一人前のスパイダーマンになるための特訓を開始する。

ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマンの3人が監督を務め、「LEGO(R) ムービー」のフィル・ロード&クリストファー・ミラーが製作を担当。第91回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞。

引用元:https://eiga.com/movie/88298/

2月21日&3月3日 TOHOシネマ二条 IMAX3Dにて鑑賞 95/100点 ]

TOHOシネマズ二条で撮影

3月8日公開を前にして試写会と先行上映で2回見てきました。

去年暮れ頃から海外の異常な評判は来ていましたけど、アカデミー賞受賞も納得の内容というぐうの音も出ないほどヤラれてしまいました。

期待値MAXゆえに映画の情報は完全にシャットアウトしてきて、試写会で初めて見たときには只々その膨大な情報量を追いかけるので必死!

原作本や周辺情報を勉強してからの2回めでようやく冷静に見ることができました。

目に嬉しい、話は楽しい、笑いどころも満載なこのCGアニメ。この尖り方、この面白さの理由を制作スタッフの重要人物、クリス・ミラー&フィル・ロードの二人から読み取っていきます。

本記事は決定的なネタバレが含まれます。ご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

なぜ成長物語に? 原作「スパイダーバース」からの大幅変更

今回の映画の基本的な物語の軸は、マイルス・モラレスの成長物語でした。

あとから原作コミック「スパイダーバース」を読んでみましたが、原作からは大胆にアレンジされた内容になっています(詳しくは原作・元ネタの解説記事をどうぞ)。

膨大なキャラが登場する原作コミックに対して、本作はとびきり異色でメインストリームではないスパイダーマンたちで意図的に構成されています。

大衆がぼんやり考える超理想的なスパイダーマンは序盤で死に、比較的見た目は一番良く知ったスパイダーマンであるピーター・B・パーカーでさえ中年太りでスレた人物。

とにかく設定自体がかなり尖った内容・・・というよりも斜に構えていると言っていいくらいです。

しかしながら映像に関しては、徹底的に「コミックのヒーローであるスパイダーマン」を追求。その凄まじい追求のあまりに誰も見たことのないアニメへと変貌しています。

最初に「コミックが動いている」としか言いようのないこの画を見た時にはただ呆然としてしまいましたが、後にあるスタッフの名前を見た時に納得してしまいました。

クリス・ミラー&フィル・ロード。ここまで述べてきた「スパイダーマン:スパイダーバース」のこの作風こそを得意とする、コメディ・CGアニメジャンル最高峰の映画監督コンビです。

重要人物「クリス・ミラー&フィル・ロード」の作家性

二人の簡単な略歴

本作では製作と脚本を担当しているクリス・ミラー&フィル・ロードのコンビ。

この二人は「スパイダーマン:スパイダーバース」の企画当初からの中心人物であり、コメディ系の娯楽映画では最前線にいる人物です。

監督としては2009年の「くもりときどきミートボール」の評価で一躍トップクリエイターとして注目され、2012年「21ジャンプストリート」で実写映画も監督し、やはり大成功を収めています。

その後には2014年の大傑作「レゴ ムービー」を送り出し、続編の「22ジャンプストリート」も同じ年に公開。順風満帆なキャリアを積み上げます。

遂にはなんと2018年公開の「ハン・ソロ/スタウォーズ・ストーリー」の監督に抜擢され・・・たのですが、製作や脚本家と揉めて降板の憂き目にあいました。

製作(プロデュース)として携わる作品はいくつかありましたが、結局この「ハン・ソロ事件」によって「スパイダーマン:スパイダーバース」が制作(現場)サイドとして2014年の「レゴ ムービー」以来の作品ということになります。

 

狂気なまでの「原案の追求」で表現

さて、この二人の作風について特徴的なのはこの2点です

  1. 原案設定を活かしたオリジナルのストーリーを作る名手
  2. 原案を徹底的に追求し、見たことのない映像にまで仕上げてしまう

この2点はクリス・ミラー&フィル・ロードが直接、制作に携わっている映画にはすべて共通するのです。これは特に同じCGアニメ作品である「くもりときどきミートボール」「レゴ ムービー」で顕著に出ています。

例えば「くもりときどきミートボール」は物語だけ取ると、やはり単純明快な青年の成長譚です。しかし原作の「食べ物が空から降ってくる」という描写を広げに広げ、実質オリジナル作品といっていいほどのアニメに。

ドラッギーと言っていいほどのテンポの良さや映像カットの早い場面、食べ物の積乱雲に食べ物の嵐という常人では考えられないどうかしている終盤など・・・。「スパイダーバース」と同じソニー・ピクチャーズ・アニメーション作品でもあるので特に必見です。

あるいは「レゴ ムービー」でもこれは同じで、お話はよくある飲み込みやすい成長物語。アニメは現実のレゴブロックが動いているかのような表現を全編に徹底することで見たことのない映画に。

このように二人の作風が一貫していることがわかります。

ただし、アニメに関してはクリス・ミラー&フィル・ロードの二人は直接的に絵を書いたりしているわけではありません。アニメ作品に関しては専門の共同監督、または監督を別に立てた座組です。

本作ではアニメーションに関して2人の監督を立てています。

動くコミック、見たことのないアニメーション

アニメーションにおいて徹底的に追求されたのは「コミックで読むスパイダーマンが動く」ということでした。スパイダーマンがコミック雑誌出身であるというアイデンティティの追求です。

「ドット印刷」「スクリーントーン」を表現することで印刷物らしさを表現、また場面によってはあからさまに「コマ割り」を見せることもあります。

アニメとしては意図的に、全体的にややカクカクしたフレームレート抑えめの動きでコミックらしさを見せたり、異次元から来たスパイダーマンたちもそれぞれ動きの滑らかさ、基本となるマイルスの世界の動きから逸脱する程度が違うなどで別のコミック・アニメの住人であることを表現しています。

さらに奥行きのある映像として、カメラの焦点があっていない場所に関しては「印刷ズレ」をしているような描き方で線やCMY(シアン、マゼンダ、イエロー)が滲んでいるように見えます。

かような技術的な挑戦と平行して、圧倒的物量のアニメーターが投入された贅沢な映像にはただひたすら圧倒されるしかありませんでした。

この辺りの話は「アート・オブ・スパイダーマン:スパイダーバース」が大変参考になるのでおすすめです。

 

必ず描かれる「ありのままの自分」VS「厳格な父」

ストーリーにおいてもクリス・ミラー&フィル・ロードの二人は一貫したテーマで共通性があります。アニメの3作すべてともなれば、これはもう彼らの作家性と言っていいかもしれません。

「くもりときどきミートボール」「レゴ ムービー」「スパイダーマン:スパイダーバース」の3作品は、すべて主人公の少年ないしは青年「本当は自分はこうありたいのに、認めてくれない」という葛藤を抱えています。

その主人公に対して必ず付随するのが、マイルスの父親がそうであったように「一般的に言われるような真面目な人生を送ってほしい」ことを期待する父親が登場します。

目まぐるしいアニメーションや、鋭い毒っ気のあるギャグをはさみつつも、主軸のストーリーには毎回このありのままの自分VS厳格な父親像が据えられているのです。

なので「スパイダーバース」でターニングポイントとなるマイルスの真の能力覚醒には、「父親との対峙」の一点に焦点が絞られています。

仲間や師匠のピーター・B・パーカーよりも、ドア越しの父親との対話やラストバトルの応援が決定的に話のキーポイントになっていることからもわかります。

「スパイダーマン」とは何か?

映画を見てから3巻揃えたコミックの「スパイダーバース」

本作のテーマは主軸であるマイルスの物語とは別にもう一つのテーマが見えてきます。

それは「スパイダーマン」とは何か?ということです。

誰もが知る最もサムライミ版「スパイダーマン」オマージュの塊だったピーター・パーカーを登場させ(詳しくは実写版の解説にて)、英雄的に死なせてまで表現したかったのは何だったのでしょうか。

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原作で提示されていた疑問「スパイダーマンらしさ」とは

ここで原作の「スパイダーバース」一巻の110ページから素晴らしいセリフを引用します。おそらくは映画のスパイダーバースにも影響があるのではないでしょうか。

セリフの主はインドのスパイダーマンであるパビトル・プラバカー。最終決戦を間近に控えて、様々な世界のスパイダーマンが集まる中で「正史のスパイダーマン」を遠目に見ながらぼやいた言葉です。

彼が・・・ピーター・パーカーが気になってね。
わかるだろう、僕らの共通点にはパターンがある。
彼にはベン伯父さん、僕にはビム伯父さん、僕の師匠はマスター・ウィーバーだった。

似ていることが多過ぎてつい考えてしまうんだ、彼こそが本物のスパイダーマンで・・・
僕は彼から生まれたバリエーションなんじゃないかと。
使い捨てのね。

少しメタな意味も入ったアイデンティティに悩むシーンです。これに対して話し相手のスパイダーUKはこう励まします。

パビトル、君は本物のスパイダーマンだ。どこに誰といてもそれは変わらない。
逆に他の連中が君のバリエーションかもしれないとは思わないのか?

クロスオーバーで主流のキャラクターから、コアな人しか知りえないような亜流のキャラまでが揃ったこそできた会話なのですが、この話の後はとくに広げられることはなく戦いの最終局面に向かっていってしまいます。

しかし映画版ではインドのスパイダーマンが提示した疑問に対して、真っ向から回答をしています。「スパイダーマン」というヒーローの総括と言っていいでしょう。

際立った亜流を集めた「スパイダーバース」の回答

映画の「スパイダーマン:スパイダーバース」はコミック版に比べてもかなり異様なメンバーばかりです。

マスクの形、色、人種、そもそも豚などかなり意図的にバラバラな方面からチョイスしたキャラクターばかり。日本人としては親しみやすいペニー・パーカーに関しても、原作「スパイダーバース」に関連して言うと単独の1話分があるのみで、かなりコアな人選といえます(詳しくは原作・元ネタ解説記事で)。

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先程紹介したインドのスパイダーマンのほうが、よっぽど設定も見た目のデザインもよく知られたスパイダーマンに近いのです。

わざわざ映画版に突飛な設定のスパイダーマンを集めたのは、見た目も設定も違う人物を並べて、それでも残る普遍的なヒーローらしさとは何かを見つけやすくなるからだと思われます。

彼らの共通点は糸を出すことも壁に貼り付くことも、ベン伯父さん的存在を亡くしたこともありますが、「絶対に諦めずに、誰かを助ける」というシンプルなヒーローらしさです。

人を助けるのがヒーロー

この映画の本編ストーリーにおいてスパイダーマンがちゃんと登場したのは、加速器の研究施設に偶然紛れ込んでしまったマイルスを助けた場面。

グリーンゴブリンとの迫力の戦闘も格好いいのですが、彼が落下しそうなマイルスを助け、颯爽とまた街を救うための戦いに戻っていく。この背中を見るからこそ、こういう人間でありたいとマイルスも思えるのではないでしょうか。

こういった利他的なヒーローらしさは、今回集ったメンバーもやはり持っています。なぜなら彼らは、この最初に登場した初代スパイダーマンと同じ様な経験を既に経て、覚悟を持ったヒーローとして戦ってきたからです。

死ぬ可能性があったとしても、誰かがこの世界にとどまらなければいけないのなら、厭わずにすぐ手を上げるような覚悟があるのです。

最大の感動ポイントはスタン・リー

ここまで長々書いてきましたが、結局は映画の結論をショップ店員として最初に口にしたスタン・リーの言葉に行き着きます。「it always fits, eventually.」とスーツを着ること、マスクをつけて誰かを救おうとすることは誰にでもできると優しく背中を押します。

多くのマーベル作品に関わり、特にお気に入りだったというスパイダーマンについてこの言葉を残したカメオ出演は、個人的には劇中の何よりも感動的なシーンとして印象に残りました。

エンドクレジットで2018年に亡くなられたスタン・リーの言葉もやはり「人を助けることがヒーロー」という言葉で締めくくられます。

これに対して映画のスタッフからはスパイダーマン原作者であるスタン・リーとスティーブ・ディッコへ「ありがとう。皆が同じでなくていいということを、教えてくれて」と返しています。

まとめ

映画「スパイダーマン:スパイダーバース」は、マイルスが大人としての自己実現、つまり利他的な生き方である「人を助けることがヒーロー」という貢献を学ぶ普遍的なテーマを擁しています。これは時代が変わっても変わらないテーマだと言えます。

そして逆説的ながら「みんなが同じてなくていい」という現代的なテーマも登場人物の多様性や映像、音楽、表現の方法で両立させた稀有な作品です。

この2面性を両立させたクリス・ミラー&フィル・ロードの映画作品のコントロール力たるや見事としか言いようがありません。

物語に関して「レゴ ムービー」のアレ(ここでは言えない)に比べるとややラストの盛り上がり欠けるという贅沢な要望や、ペニー、ノワール、スパイダー・ハムの描写が少なくてちょっと寂しいなどのおねだりもしたいところですが・・・詮無きことですね。

2018年に公開された最高のアニメ作品なのは間違いないです。

おまけ:レオパルドンの登場シーンは?

東映版スパイダーマンが所有する巨大ロボット「レオパルドン」

原作ではまさかの登場で、連載当時もファンの間ではここ日本までそのどよめきが伝わってきました。

さて映画版を見た人はわかっていると思いますが本編の物語上は一切出ていません。残念。 

がしかし・・・

実はカメオでそれらしきイラストが登場しています。公式トレーラーの開始8秒あたりにも出ているのです。

レオパルドンの登場シーンはマイルスの部屋でした!・・・ただしイラストのデザインは微妙に本物のレオパルドンとはズレています。やはりマイルスの世界は私達の生きる世界を少し歪めているということがここからも分かりますね。

場所は変わらずに劇中で何度かチラ見えしているので、マイルスの部屋のシーンになったら目を凝らしてレオパルドン(もどき)を探してみましょう!

続編では本編での堂々たる本物登場を願いたいと思います。

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のっち
ムービニアンズの丸い方。 趣味はゲーム・・・だったけど今はもっぱら映画鑑賞。 洋画を中心に、アニメ、ドラマをよく見る。 最近はインド映画も修行中! 今までに見た映画はこちら