上映時間:117分分 監督:矢口史靖 キャスト:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな
あらすじ
東京で暮らすごく平凡な一家、鈴木家。当たり前のように電化製品に囲まれた生活を送っていたある日、電気を必要とするあらゆるものがなぜか使えなくなり、東京は大混乱に陥ってしまう。交通機関や電話、ガス、水道まで完全にストップした生活に人々が困り果てる中、鈴木家の亭主関白な父・義之は、家族を連れて東京を脱出することを決意するが……。引用元:https://eiga.com/movie/85302/
映画『サバイバルファミリー』の感想・レビュー[16492件] | Filmarks
危機感のない危機
何気ないごく普通の家族の1日から始まるこの物語。
鈴木家は、父は仕事一筋のサラリーマン、母は専業主婦で、息子は恋する大学生、娘はスマホを離せない女子高生という、ごくありふれた家族。
だが、突如として世界中の全ての電気が止まってしまう。
しかもコンセントから取る電気だけでなく、電池や車といったありとあらゆる「電気」を使う全てがある日突然使えなくなってしまった。
1日目こそ、大混乱を起こしながらも普段と変わらない日常を過ごそうとする人たち。
電気が止まっていながらも父は駅に向かい仕事に行き、息子は大学へ、娘も高校へ行く。
周りの人間も同じく普段と変わらない行動を取る。
大金をはたいてでも仕事に行こうとする人。自習になって喜ぶ生徒。仕事にならないのに、会社に来て仕事をしようとする人たち。
その誰もが、今の危機的状況を全く理解していなかった。
人間というものは、これだけ異常事態であっても変わらず普段と同じ行動をするものなのかと逆に人間の異常性を感じてしまった。
電気が止まるということは、世界のほぼ全てが止まってしまうことと変わらない。
ある意味世界崩壊、命の危機と同等と言っても良い事なのに、変わらず普段と同じ行動を起こす異常性。
もしこれが現代ではなく原始時代であった場合で例えてみると、火、水、食料、武器、移動方法。これら全てを無くした状態と言っても良い。
この状況で危機感を感じない古代人は絶対に居ないだろう。
だが、現代人はその事に気が付かない。
確かに今の時代ライフラインはとても整備されており、何が合っても数日中には回復する。
それは今までの人類が築いてきた文明の積み重ねがあってこそではあるが、それを信じきってしまっている現代の恐怖を感じた。
電気が止まって数日、水も食料も無くなり、いち早く危機感を感じた人たちが都心から地方へと逃げ出す一方。
鈴木家の住むマンションではこんな状態になっても未だマンションを維持しようとする人たちが居た。
人は巣穴からは出られない
食料も水も無い中、それでもマンションから逃げ出さない理由はなんなのか。
劇中では、「マンションの住人一人ひとりが一致団結してこの危機を乗り切るしか無い!」との高説を垂れていたが、人とは安心を求めるものだ。
水も食料も交通手段も無い現状。家から出て地方という安全地帯に逃げ込むのは危険で過酷なサバイバル生活になる。
だが都心にいても食料が入る見込みは全く無い。その事に気がついた賢い人達は、マンションの住人に後ろ指刺されながらもいち早く地方への脱出を目指した。
人は住処である家から中々出ることが出来ない。今までの生活を捨てられないのだ。そんな中でいち早く地方へ脱出した人たちは行動力のある人たちなのだろう。
だが、マンションから出る勇気の無い人たちは、マンションの自治という名目で群れ、気を大きくして出ていった住人をバカにして尊厳を保とうとする。
鈴木家はいち早く地方へ脱出していく人たちをみて、マンションから脱出し、母方の実家である熊本を目指す決意をする。
マンションに残った人たちのその後の描写は無いが、彼らは最後どうなったのだろうか。
意外と勉強になったサバイバル術
鈴木一家は何度も道に迷ったり、困難に遭遇しながらも熊本を目指すが、ついに食料も水も尽きてしまう。
そんな時に彼らがとった行動が、近くのホームセンター?でバッテリーの補充液を使った水分補給だった。
バッテリー補充液は純度の高い精製水(つまりきれいな水)なので、飲むことが可能だった。
また、食料として猫缶を大量に手に入れて食べることに。
なんとかバッテリー補充液と猫缶で飢えと乾きに耐えていた鈴木一家は、道の途中でサバイバル生活をエンジョイしている人たちに出会う。
鈴木一家がボロボロの格好をしているのに対し、彼らは綺麗なサイクリング服に、テント、干し肉を食べたりと、笑い声さえ起きる生活をしていた。
そんな彼らに鈴木一家は、雑草の殆どは味さえ気にしなければ食べられるなど、サバイバル術を学ぶことになる。
猫缶が食べられることは知っていたが、バッテリー補充液も飲むことが出来るのは驚きだった。
調べてみたところ、他にもコンタクトレンズの精製水も飲むことが出来るらしい。
案外探してみると飲めるものは多いのかもしれない。ただし、飲む時は不純物が入っていると体に毒なので、そこは注意する必要があるとか。
と、このように、劇中で語られるサバイバル術が勉強になった。
もし日本中の電気が止まったら試してみようと思う。
家族の描写がリアル
この映画の見どころは、家族の描写だ。
最初は家族に関心がなく、仕事一筋で頭でっかちの頑固親父だった父親。
全て口先で全く役にたたず、責任は全て人のせい。挙句の果てにうまくいかないとスネてしまうという糞オヤジである。
もし自分の親父がこんな人物だったら、早々に見切りをつけて途中で捨ててしまう気がする。
そんな父親に対し、すべてを諦めたような母。
色々な不満を内に抱え込んでしまうような女性で、夫の理不尽な言動にも静かに我慢してしまうような性格をしている。
主婦としてもごくありふれた女性で、実家から送られきた魚丸々一匹を、捌くことが出来ないでいる。
兄は大学生で、この家族の中では比較的まともな性格をしている。あまり話すようなタイプでは無いが、父親の言動にウンザリしている。
娘は女子高生ということもあって、ワガママばっかり。アレが嫌、これは駄目、常に家族に迷惑ばっかりかけて実に鬱陶しい。
このように一癖も二癖もある家族関係が、それでもなんとか必死に熊本を目指して行く。
家族の成長
数多くの困難を乗り越え、熊本目指して旅をする一家だったが、互いに啀み合っていた関係は徐々に修復されていく。
父親が子どもたちのために土下座をしたり、今までは文句ばかりだった娘が率先して動いたり。
魚一匹捌けなかった母親が、豚の解体を手伝ったりと、家族それぞれが生き残るために必死になって行く。
そうしていく内に、互いを認め合い、関係が修復されていく。
監督がウォーターボーイズやロボジーなどを作った矢口史靖監督ということもあって、シリアスにはならない。
むしろ所々で笑う場面がありながらも、しっかりと家族の絆、愛情を描いた映画になっている。
最初と最後の描写
この映画は最後、「突如として電気が復活して再びものと生活に戻る」という展開で終わる。
だが、映画の冒頭で魚を捌けなかった母はすっかりと包丁で魚を捌き、家の中では挨拶すらしなかった息子は、しっかりと家族に挨拶をするように。
スマホばかりいじったり、文句ばかりだった娘も成長しており、冒頭ではなかった家族の成長と絆をしっかりと感じさせる終わり方だった。
命がけの大変な騒動ではあったものの、それでも人は変化し、生きていく。
現代社会の良さを失ってしまったからこそ、人間本来の良さ、強さを取り戻すことが出来たのかもしれない。
サバイバルファミリー感想まとめ
なぜ突然電気が戻ったのか、そもそも世界中の電力が切れた原因は本当に太陽フレアだったのかという疑問は残るものの、全体的に面白い映画でした。
特に父親役である小日向さんの演技がとても良く、実に鬱陶しい父親役をされていた。
また監督が矢口史靖さんということもあって、所々笑える所がありならも、しっかりとした作りの映画となっっていました。
東京から熊本まで移動しただけの話が本当にサバイバルと言って良いのか分かりませんが、いきなり原始時代のようなサバイバル生活を現代人が行うというのもおかしな話。
現実にありそうなお話の展開でありながらも、フィクションである線引が上手く出来ていた映画だと思います。
実際に世界中の電力が止まったら、自分はどうするのかを考えながら観ると面白い映画でした。
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