原題:kho ki pa lü 英題:Up Down & Sideways
上映時間:83分
監督:アヌシュカ・ミーナークシ イーシュワル・シュリクマール
あらすじ:インド山間部の村々で古くから伝承されてきた「歌」をめぐる音楽ドキュメンタリー。インド東北部、ミャンマーとインドの国境近くに位置するナガランド州。
村人たちは棚田の準備、苗木植え、穀物の収穫と運搬などの作業をグループごとにおこない、彼らは作業の間はいつも歌を歌う。季節、友愛など、生活のすべてを歌で表現し、1人が声を発するとそれに呼応するかのように他の誰かが歌いだす。
女性、男性も問わずに掛け合いながら歌われるその歌は「リ」と呼ばれ、ナガランドの山々へと広がっていく。
インド南部出身で、共同監督を務めたアヌシュカ・ミーナークシとイーシュワル・シュリクマールが、棚田の雄大な風景、移り変わっていく季節、人びとの生活や農作業の一部始終を淡々とカメラに捉えていく。
引用:https://eiga.com/movie/89409/
12月02日 京都・出町座にて鑑賞 [ 75/100点 ]
以前に「人間機械」を京都・出町座で鑑賞した時に、予告編でこの「あまねき旋律」を知りました。
ドキュメンタリー映画について、というかそもそも知られざるナガランド州について語るすべはほとんど持ち合わせてはいないので、感想についてさくっと綴ってみます。
ちなみに知ったキッカケである人間機械はこんな感じの映画。
農耕を扱った本作とはあまりに対称的な、しかし労働と音を全面に出した点で共通するドキュメンタリー映画でした。
人間機械としての労働
いきなり個人的な話なのですが学生時代のアルバイト、そして社会人として就いた仕事がなにかと単調な作業というのが多くてですね。特にアルバイトの方は立ちっぱのライン作業で特に将来に役立つものでもないという、ほんとにほんとに単調な仕事で辛かったです。
で、上にあげた2作のうち先に見た「人間機械」はというと、題名の通り他人事のようには思えない内容でした。もちろん映画の内容に出てくるインドの繊維工場のほうが遥かに劣悪な環境なんですけどね。
ウトウトしながら回転物の近くで作業してたり、意思を感じさせない顔で黙々と肉体労働をし、露骨に待遇の不満を口にする人もいれば、そんな仕事の中にも職人肌的に技術を身に着けようと上昇志向を持つ者もいたりと。
劇中の鳴り響く機械の轟音を全身に浴びながら、ずっと「わかるわー、わかるわー・・・」と心の中でうなずいて鑑賞していた「人間機械」。
ところが、ですよ。
同じ労働をテーマにしながら「あまねき旋律(しらべ)」ここまで違う世界に見えるのかと。
普段からそこそこの騒音を立てる機械を相手に働いている身としては、そこがすごく身に染みました。
歌があれば、仲間がいれば頑張れる
工場務めだから余計に思うのかもしれませんが、どんな単調でしんどい作業であっても必要とされてその場にいて、仕事しているのだという自負は、必ず持とうと考えています。
だって代わりが誰でもいい仕事ってやりがいないですし、自分が未熟で技術的に誰かに取って代われる仕事であっても、縁があってその場で仕事しているわけですから。
そう考えてないと気が狂うわけで。
で、そこを正面から突いてきたのが私にとっての「人間機械」。
しかし「あまねき旋律」に出てくる仕事というのは「人間機械」とも共通する過酷な肉体労働でありながら、人を助ける便利な機械は登場しない。
仕事に必要とするのは体と歌と仲間なのです。
雑草生い茂る棚田を耕すのは己の肉体とクワですし、苗を植えるのも手作業。農作業に携わる人達の筋肉も半端なく発達してて、自分がやったら翌日には筋肉痛で死ぬだろうなというハイペース。
そういう私から見たら過酷すぎる労働も、彼らは歌と一緒に働く仲間(クレという組)がいれば乗り切れるというんだから・・・。
実際に映画のなかで歌われる数々の歌は、なんとも高揚感のある一方で不思議と落ち着きもある独特な旋律。これを仲間とともに歌いながら仕事をしていれば、たしかに乗り切れそうな気もしてくる。
歌詞の内容はというと率直に仕事を鼓舞するものから、恋愛歌のようなものまで様々。ノリで即興詩を歌っているのか、なんにせよ素直で牧歌的。
音響とハーモニーの心地よさで眠気まで催してくるような落ち着きを与えてくれるんだけど、画面で繰り広げられるのは一所懸命に繰り広げられる仕事の連続に目を剥いて凝視してしまう。このアンビバレントな気持ち。
そんな思いを鑑賞中に抱いたところで、ふと気づきました。
「私って仕事から歌を奪われていたのか」と。
まあ工場で一人だけ歌いながら作業してたらどう考えてもおかしいんですけどね。でも人間が元来もっていた、しかも農耕民族として先祖には普通にあったかもしれない仕事の風景を奪われた中で、この現代で仕事をしているのかなと。
画面に映る彼らの境遇は決して羨ましくない。ですがこの題名どおり「あまねき旋律」に囲まれた仕事風景には憧れと敬いすら覚えてしまいました。
まとめ
私感まるだしですが、「人間機械」と本作「あまねき旋律(しらべ)」を見比べての感想でした。
加えてここで白状しますが両作ともにパンフレットを購入しておりません!買っていればもっと深く勉強するチャンスだったかなあと、あとになって後悔しています。なので今回は文化的な背景やナガランド州の独立闘争などは全く踏み込めず。公式様ごめんなさい。
同じインドでも、地域も民族も職業も全く異なる内容でしたが、今回はこの2作品を見比べられるタイミングを得ることができて大変幸運でした。
個人的にも仕事への考え方に示唆をいただけました。今後映画館で見る機会がもしあるのなら、ぜひオススメです。
・・・明日は月曜日、粛々とお仕事がんばろう。
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